キミに恋の残業を命ずる
…どうするんだろう。

わたしは仕事をしつつ、耳をそばだてた。


「あ、遊佐課長!」

「課長、おつかれさまでーす!」

「やぁおつかれさま。大盛況だね。どの鍋もすごく美味しいってみんな大満足みたいだよ」

「ほんとですかぁ?よかったぁ」

「がんばって準備した甲斐があったね」


田中さんたちは課長の登場に声を甲高くさせてよろこんだ。
そんな先輩たちにどんな仕返しをするというのか…課長の目が鋭く光った気がした。


「味だけじゃなく食材もすっごくおいしいし…この蟹とかよく食べるのとちがうよね、産地どこなの?」

「え、えっとそれはたしか…」


どもる先輩。

それはたしか石川県だ。
旬を迎えたばかりの卵持ちの蟹で、珍しいし味噌鍋に合うからと思って注文したんだけど…。
知らない人は知らないよなぁ。


「た、たしか…北海道だったかな」


くちごもる先輩たちをおいて、田中さんが返した。
< 156 / 274 >

この作品をシェア

pagetop