キミに恋の残業を命ずる
「あれ、注文したのに覚えてないの?」


これ見よがしにおどろいて見せる課長。
声が大きい…わざとらしすぎますよ…!

四苦八苦しながらも、田中さんがどうにか取り繕う。


「ちょっと今は思い出せなくて…!後でメモして渡しますね」

「後だと酔って忘れそうだしなぁ。悪いんだけど今聞きたいんだけどなぁ…。あ」


ぱちり、と課長と目が合った。


「三森さんだっけ?キミは知らない?」

「え…え?」

「知ってるでしょ?だってキミ、さっき業者に追加注文できるか確認電話してたじゃない。いい業者だからって秘密はいけないなぁ」


か、課長…もういいです…。
先輩たちの目が怖いんですけど…。


「そういえば鍋の味付けもキミでしょ?他の子はおべっか使ってばっかりで大した働いてないけど、キミは足し汁したり材料運んだりして忙しそうだし」


「そういえばそうだなぁ」と、いつの間にか課長たちのやりとりを傍観していた他の社員からも、ざわめきが広がる。

総務部の面々はどんどん縮こまって居た堪れなさそうにしている。


…静かな吊るし上げだ。
残酷です、課長…。


けど課長はもう飽きたかのように先輩たちから離れると、スマホを出した。
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