キミに恋の残業を命ずる
「うう、こわ…」


廊下に出てみて、改めて痛感する。


ほんとに、残業してるのってわたしだけみたい。


暖房どころか照明すら落とされた廊下はひんやりとしていて真っ暗で、非常出口や警報機の派手な光だけが不気味な雰囲気をかもしだしている。

怖いから急いで歩いても、


ぺたぺた…。


サンダルの足音が妙によく響いて…余計に怖くなる。



うちの社がまるまる入っているこのビルは、数年前に中古で買った時点で、築四十年は経っていたらしい。

そんな代物だから、まことしやかにささやかれている「いわく」なんてのもあったりする…。


『このビルのどこかに、誰も入ってはいけない開かずの部屋がある』

とか。

『残業苦で自殺した男性社員の霊が、夜な夜なビルの中をさまよっていて…実はこの会社が残業ゼロを推進しているのも、その霊の影響のせいだ』


とか…あまり楽しめないウワサが…。
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