キミに恋の残業を命ずる
思いもよらぬVIPの登場にあたりは騒然となった。うちの社長はこういうのには参加しないのに、と珍しがっている。


総務部の先輩たちもトップがお出ましとなればおべっかどころじゃない。散り散りに去ってしまって、わたしと課長だけが残った。


社長と服部部長は、最初からわたしたちが目当てだったみたいに、まっすぐ向かってきた。


「やぁ、遊佐君」

「おひさしぶりです社長」


わ、課長もさすがに社長には礼儀正しい。
さっきまで挑発的だった目も、頭を下げて伏せている。


「社長がこういう場にお顔を出されるのは珍しいですね」

「それはこっちの台詞だよ、遊佐君」


ぎこちない笑みを浮かべる課長…。

単なる会話に聞こえるけれど、真相が真相だけにその裏に潜む意味は深い。

社長にしてみれば、こういう場に課長が出たのが意外だったんだろう。それでわざわざお出ましになったのかもしれない。


なんて、まるで空気みたいに二人を見ていたわたしに、突然社長が顔を向けた。
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