キミに恋の残業を命ずる
「こちらが例の三森さんです」


服部部長が小声で紹介してくれた。


「そうか。キミが…」


わわ、亜依子さんのお父さんと言うだけある。
きりりとした和風顔に経験と風格を織り込んだハンサムだ。


厳しそうな顔に見つめられて、わたしは緊張した。

ひぃ…。やっぱり部長からわたしのこと聞いてたんだな。
もしかして、今日ここに来た一番の目的もわたしを見聞するため??

どうしよう…大したことのない女って思われたかなぁ…。

どうにかフォローしてくださいよっ、と縋るように課長を見たけど、わたしははっとなった。


課長がものすごく強張った表情を浮かべて、服部部長を見ていたから。


よくもやってくれたな、って恨み言が今にも漏れ出そうな表情は、怒っているといってもいい。

やっぱり…さすがに社長にはわたしのことは秘密にしておきたかったのかな…。

どうしよう…わたしが悪いわけじゃないけど…居た堪れない。


「まぁ、豪華な組み合わせですこと。まわりのみんなも興味津々で見てますよ」


そんな状況をやぶってくれたのは、華やかな女性の声だった。
< 161 / 274 >

この作品をシェア

pagetop