キミに恋の残業を命ずる
残されたわたしたちの間に、またぎこちない空気が流れる。

人嫌いとは言え場を壊すことはけしてしない課長なのに、こんな態度は珍しかった。


やっぱり、秘密を知っている社長に急に会ったのが気まずかったのかな。


「すいません社長。愛想のないヤツで」


服部部長が深々と頭を下げた。


「いや、それだけ忙しいということだろう。頼もしいことじゃないか。すこしだが会えてよかったよ」

「そうですね」


そう相槌を打って、亜依子さんも課長が去った方を見つめた。
その視線にはどこか熱い想いが宿っているように感じられて…思わずわたしはその綺麗な横顔から視線を外した。


「では我々もこの辺で」

「ああそうだな」


と部長と去ろうとしたところで、社長がわたしを見た。


「三森さん、だったかね。キミにも会えて良かったよ。また機会があったら」

「あ、はい!ぜひ!!」


なんてぺこりと下げたけど、社長とまた会う機会なんてこの先絶対なさそうだけど…。
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