キミに恋の残業を命ずる
「貝とか蟹とかたくさんあったんですけれど…最後の方は具材もほとんどなくなっちゃってて…」


ふたを開けた鍋には、白菜といろんなきのこと鳥団子が数個が、お醤油出汁の中でぐつぐついっていた。

課長が寝ている間に、音をたてないよう気を付けながら作った。

出汁は作り置きが残っていたけど、具材はかろうじて余っていた平凡な食材だけ。
こんなんじゃ、ぜんぜん満足してもらえないかもしれないけど、課長への感謝の気持ちを表したくて、わたしができるせめてものことだった。


「ごめんなさい、ぐずぐずしていてこれくらいの具材しか確保できなくて…」


課長はなにも言わず、箸を持ってくれた。

そして汁を飲んで一言、


「美味しい」


顔をほころばせてくれた。


「すごく美味しいよ。こんなに上手い鍋食べたの初めてかも」

「…ほんとですかぁ?」


ん、とうなづいてもう一口。
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