キミに恋の残業を命ずる
「課長はお父様に会うことはあるんですか?」

「いや…たまにしか会わないかな。近況報告をするくらいで」


わたしは真剣な眼差しで、じっと課長を見つめた。
今ばかりは課長が照れるように眉をひそめている。


「余計なお世話かもしれないですけれど、課長はおもっとお父様に会ってお話するべきです」

「え?…話すことなんてないけど」

「だからです。血をわけた親子なのに、話すことが無いなんて寂しすぎます。
だって、課長にとってはたったひとりのお父さんだし、お父さんにとっても、課長はたった一人の息子なんですよ」


ふっ、と課長は苦笑いを浮かべた。


「父には他にも子がいる。なにも俺一人が特別というわけじゃないさ」

「でも…!」

「いいんだ。自分から話しといてなんだけど、父の話はこれで終わりだ」

「…」

「悪かったよ。なんだか、キミには話してしまいたくて…」

「じゃあせめて…わたしが課長の家族になります」

「え…」


課長の目が大きく見開いた。

その顔を見て、自分がとんでもないことを言ってしまったのに気づいた。

あああ、なにを言ってるの。これってまるで


「プロポーズ?」
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