キミに恋の残業を命ずる
ぎゅうと仕舞いこまれるように抱き締められてしまった。そしてそのままソファに倒れられる。

かすかなワインの香りがわたしをつつんで、痺れさせる。


「は、なしてください…」

「だめだ。俺のすることはなんでも受け入れる―――これも条件だったろ」


ワインよりももっと濃厚な声が、耳を刺激した。



「帰したくない。今夜は俺といろ」





そん…な…。


だめ…。





だって、わたしは知っているもの。


前に見付けたポーチ。
あれがもう洗面所からなくなっていることに。


課長はやさしい人。

でも、恋をしていい相手ではない。
わたしは課長のような人と恋を楽しむような器用なことはできない…。
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