キミに恋の残業を命ずる

「おねがいします…」


泣きそうになるのをこらえながら、わたしは課長の胸に懇願した。


「帰してください…離して…」

「だめ。俺の命令は絶対だろ」


手首をつかむ手の力が強くなる。
束縛も辞さないくらいに乱暴な手。
攫われように心が陥落しそうになる。けれどだめ、だめ―――。



くすり



笑い声が小さく耳を打った。


「そんなに震えられちゃ、帰さないわけにはいかないな」

「…」

「規則違反だけれど、今回は特別に見逃してあげる。」



課長はゆっくり離れるとジャケットを羽織った。


「送っていくよ」
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