キミに恋の残業を命ずる
まだ終電は残っている時刻だけれど、もう遅いからと言って、課長は社の前にタクシーをとめてくれた。
「本当に大丈夫ですよ…?悪いです」
「だめだ。ちゃんと家の前まで送ってもらうこと。あと、着いたらメールして」
押し込むように乗せられて、運転手さんに先にタクシーチケットを渡されては、もう拒めない。
「ありがとうございます…」
「俺の方こそ」
「ごめんね」と続け、課長の手がドアを閉めた。
タクシーはそのまま発車してしまった。ガラスごしに振り返ると、課長が遠のくのが見えた。
冬を迎え、今夜は寒い夜だった。
ジャケットだけの課長は、タクシーが左折するまで見送っていた。