キミに恋の残業を命ずる
振り向いたわたしたちはおどろき、富田さんは文字通り恐縮して縮こまった。



遊佐課長が立っていた。



「か、課長、おつかれさまですっ」


富田さんにとっても、課長は伝説的な存在だ。
深々と頭を下げるけど、課長は見向きもせずわたしに近寄ると、さっきの冷やかな声で続けた。


「三森。キミは残れ。残業だ」

「え、でも」

「飯食いに行く余裕があるなら、俺の仕事も引き受けられるだろ」

「…」

「返事は?俺の命令がきけないのか?」

「じゃ俺も手つだ」

「おまえは帰れ、富田。付き合い残業は禁止のはずだろ」

「あ、はい…」


課長の様子は有無を言わせないものがあった。
申し訳なさそうな表情を浮かべると、富田さんは逃げるように出て行った。


「課長…これには」

「来い」


強く手を引かれ、わたしは自販機コーナーを抜けた。











< 207 / 274 >

この作品をシェア

pagetop