キミに恋の残業を命ずる
課長がわたしの耳にささやいた。
きゅっと胸が甘く締めつけられる。
ドキドキするのをごまかして、わたしは笑った。


「んーでも寒いのが苦手な課長にはつらいかも」

「ふふふ。家の中で亜海にくっついて見るから大丈夫。―――行こう?二人でキミの故郷に行って。近いうちに必ず」


その言葉にふくまれる想いに、わたしの胸はじんと染み入るような幸福を覚える。


「必ず行くからね。ふたりで」

「はい…ぜひ…」


うなづきながら、わたしは温まりだした窓ガラスに落ちては溶け消える雪のかけらを見つめていた。


ここの雪は、故郷の雪とちがって、すぐに溶け消えてしまう…。


綺麗に空を舞う雪。
地上に落ちればすぐに溶け消えてしまう儚いもの。ここで見る雪は、何故だか寂しい気分を呼び起こす…。


わたしは…まだあのポーチのことが聞けずにいた。
持ち主は誰なの?
女の人が来ていたの?


…ううん、誰だっていい。
たとえこの部屋にわたし以外の女の人が来ていたとしてもいい。

今、わたしだけが、課長に愛されているのなら、それでいい…。
信じたい。信じてしまいたいって思ってゆだねたの。


だから…


すがるように課長の温もりに身をゆだねた。



どうか、わたしに与えられたこの愛も、儚く溶け消えてしまいませんように…。



そう願って閉じた瞳に、課長の唇がおちてきた。

とても柔らかくてやさしい口づけだった。










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