キミに恋の残業を命ずる
思わず言葉を忘れていると、きれいな顔は不意にイジワルな表情を浮かべた。
「魔法の次は妖精ときたか…なるほど、こんな時間までもたくた仕事しているわけだ」
「へ…」
「せっかく昨日助けてやったのに今日も残業だなんて。キミって、相当ダメな社員なんだね」
「え…」
なに…このお言葉。
トゲ、ありすぎ…。図星だからなにも言い返せないけど。
「しかも、あんまりひどかったからさすがに見かねて助けてやろうと思ったら、いつの間にかウトウトしだしてたし。帰れないのに居眠りこくなんて、ダメ社員のクセに肝だけはすわってるよね、キミ」
もしかして、今の方が夢見てる?
姿形はたしかに同じ人なのに…雰囲気も表情も発言も、全然ちがうんですけれど!
やさしいって思ってたのに、そのきれいな顔に似合わないイジワルな顔は、言葉は、完璧にわたしのことバカにしてる…!?
『やさしい王子様』像がガラガラガラと崩れていくのを感じながら、わたしはエセ王子様の胸から離れてペコリと頭を下げた。
「き、昨日はありがとうございましたっ。わたし仕事が残ってるんでこれで」
と、脱兎のごとく去ろうとしたら、
「待って」