キミに恋の残業を命ずる
何度も頭を下げながら二次会場所に向かう一行と別れると、一次会場所のお手洗いに入った。
待ち合わせ場所はここから歩いて十分ほどの場所。
時間もまだ三十分以上余裕があるから、お化粧直ししよう。
一次会は忘年会らしく鍋が出て、部屋も暖房がきいて厚いくらいだったから、わぁ顔がてかってる…。
よく直さなきゃ。
裕彰さんにからかわれちゃうな…。
と、シートで整えて、ファンデーションを乗せはじめた時だった。
きっ、と木製のドアが開いて、人が入ってきた。
「あ」
「あら」
おどろいた。
入ってきた女の人は、亜依子さんだったから。
いつものパンツスーツスタイルとちがい、今日の亜依子さんは落ち着いたオフホワイトのタートルにシルエットがきれいなワインレッドのフレアスカート。
胸元に光るイエローパールのネックレスがやさしい雰囲気をかもしだしている。
シンプルだけど上品で素敵な姿だった。
亜依子さんは、一瞬、強張った表情を浮かべた―――けれど、すぐ持ち前の女優さんのような笑顔を浮かべた。