キミに恋の残業を命ずる
「ちょっと…飲みすぎちゃったみたいで…大丈夫です。すぐなおります」

「…本当に?無理しないで?わたし、家まで送って行ってあげようか?」

「大丈夫です…!」


背にそっと触れてきた手から、思わず逃げるように避けてしまった。

亜依子さんは、ちょっと戸惑った表情になる。

でもとても冷静になんかなれなかった。
笑顔を作って亜依子さんと話しできる気持ちになれなかった。


わかってる。
まだそうと決まったわけじゃない。


わたしと出会う前に関係があったってだけかもしれない。ショックだけど。


…でも、そうなると亜依子さんは課長の秘密を知っていたことになる。じゃあもしかしてわたしのことも感付いてる…?もしそうなら、この亜依子さんのやさしさは、なに?

いや、落ち着いて。ほんとうに同じものだった?似てるだけかもしれないじゃない。
たまたま同じものを持っていたってだけかもしれないし…落ち着け、落ち着け亜海。


ぐるぐるぐる…考えが渦を巻いて怒涛に押し寄せてきて眩暈と胸悪さが増す。
< 229 / 274 >

この作品をシェア

pagetop