キミに恋の残業を命ずる
「…亜海…!」
裕彰さんが気づいて見上げてきた。
その顔は、イケメンが台無しってくらいに鼻も頬も真っ赤になっていた。
もしかして、ずっとここで待っていたの?
そんな考えがよぎったけれど、わたしは反射的に踵を返してしまった。
「待ってくれ、亜海っ!」
「いやっ!帰って!!」
ドアを乱暴に閉め、チェーンロックをかける。
ドンドン!と叩く音が聞こえた。
「亜海!どうして電話にも出てくれないんだ!?勘違いするな!あの動画はそういう意味じゃないんだ!」
「じゃあ、どうして黙ってたの!!わたし前からずっと知ってたんですよ、亜依子さんあの部屋に来ていたこと!」
沈黙が聞こえた
「だから…だから言い聞かせていたの。『好きになっちゃダメ』って、『課長みたいな人とわたしは恋なんかできない』って…」
涸れていたはずの涙が頬を伝った。
「ひどいですよ…信じさせといて…。こんなに好きにさせといて…あなたはやっぱり…意地悪です…」
「亜海…」