キミに恋の残業を命ずる

ここで、裕彰さんがやっと口を開いた。


「みなさん、この場で発表するのもなんですが、ここにいる服部部長、亜依子のためにもお知り頂きたいことがあります。
俺、遊佐裕彰は日野社長の実の子です。
訳あって公表できずにいましたが、今ここで社長より紹介される形で許しを得ましたので告白します。そして、俺の隣にいる日野亜依子さんは俺の腹ちがいの妹にあたります」



えー!!



ざわめきを越えて絶叫が響き渡った。

そして、矢継ぎ早に質問が裕彰さんや社長や亜依子さんに向けられた。

三人はそれに丁寧にかつ誠実に答え、この驚くべき事実を教えた。

もちろん、社長の沽券にかかわることは秘密にしてだけれども。


でも、裕彰さんから生い立ちを聞かされていたわたしだけは、すべての真実を理解したのだった。



「…ですので、あの動画とウワサは全く事実を曲解するものだということをみなさんご理解いただけたでしょうか」


あらゆる質問にも誠実に回答した裕彰さんは、疲れるどころかむしろすっきりとした表情を浮かべていた。
それは、社長も亜依子さんも同様のようだった。

かなりつっこんだ質問や、こういう場で露骨に伝えることじゃない、という批判もあった。

けれどすべてに真摯に答えることで、三人は三様の心の解放を手に入れたのかもしれない。
< 249 / 274 >

この作品をシェア

pagetop