キミに恋の残業を命ずる
「さて、と」
質問、批判、要望、意見…すべてを一掃し、やがて根負けしたかのように静かになったラウンジ内を見回して、裕彰さんは悠然と言った。
「ここから、俺の今日の最大にして最後の本題に入らせていただきたいと思います。
…実は、妹とジュエリーショップに行ったのは、幸せな妹に触発されて、俺も俺の幸せを我が物にしたいと決起したからでした」
そう言うと、キャラメル色の瞳が、真っ直ぐにただ一人を見つめた。
わたしを。
わたしを見つめたまま、裕彰さんがこちらに向かってきた。
なあに…なにをするつもりなの…。
立ち尽くすわたしに、裕彰さんは恭しく跪いて手を取った。
「来てくれるって信じていたよ、亜海」
「裕彰…さん…」
「約束通り、キミにすべてを明かしたよ。今まで秘密ばかりでキミを苦しませてしまったけれど…これで俺のこと、信じてくれる?」
そうして手の上に乗せられたのは、小さな小箱だった。
開いたその中では、まばゆい貴石が光っていた。
六角形の台座の上で八方に輝くそれは、まるで結晶だ。
けして溶け消えることのない、雪の結晶。
「亜海。これが俺の永遠の愛の証明だよ。
…結婚してくれ」
ぼやけた視界に、まばゆい光がにじんだ。
「わたし…ごめんなさいわたし…」
「謝らなくていい。返事だけ言って。
俺だけのものになるって…。俺とずっと一緒にいるって…」
わたしは指輪ごと彼の手を取って、笑った。
わたしはあなただけのものです。
永遠に、あなたのそばにいさせてください。
「どうか…あなたの妻にしてください…」