キミに恋の残業を命ずる
トンネルを抜けた途端、窓ガラスが白くくもった。


うたた寝から目を覚ました裕彰さんは、肩を縮こませて言った。


「なんか寒くない?」

「ふふ、お外、見てみてください」


みかんをつまみながら、わたしは真っ白な窓を指差した。

拳できゅきゅとを窓ガラスを拭うなり、裕彰さんは感嘆とした声を上げた。


「すごい。一面雪だらけだ!」

「もうすぐしたら到着ですからね。寒いから覚悟しておいてください」





亜依子さんと服部専務の結婚式が終わって一週間。

わたしと裕彰さんは、自身の式の準備に追われる最中時間を作って、わたしの故郷を目指していた。


飛行機に乗って、そこから特急で数時間。一苦労だ。
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