キミに恋の残業を命ずる
抜けるような夏の青と春の淡い水色が混ぜ合わさった空が、窓いっぱいに広がっている。


とてもいいお天気。
今日と明日のことを思うと、ウキウキしてくる。



北国ののどかな庭園で結婚式を挙げるわたしたちは、いよいよ本番を明日に控えていた。


今日は最後のリハーサルと記念撮影をすることになっている。


式場のスタッフさんが迎えに来てくださるのを、ログハウス風の小さなラウンジで待っていたら、木のやさしい雰囲気と仄かに揺らめく暖炉の火に誘われて、いつの間にかうたた寝してしまっていた。



「大丈夫?疲れてない?」



そんなわたしに裕彰さんはやさしい言葉をかけてくれる。


あなたの方がずっと疲れているはずなのに…とわたしは居ずまいを正して頬を軽くはたく。口、開けてなかったかな。ヘンな寝顔してなかったかな…。


くすり、と笑い声が聞こえて、あたたかい手がやさしくわたしの頭に乗った。



「明日でこの忙しさも終わるから」



そうしたら、ふたりでゆっくり過ごそうね。



そう、ささやきながら、撫でるように手を滑らせて、最後にわたしの頬をそっとつねる。



あまいあまい、キャラメル色の瞳。



明日、永遠の愛を誓うというのに、いまだにきゅんと痛んでしまう胸。


どきどき高鳴りながら、うなづくようにそっと視線を下に向ける。こんなほんわりした雰囲気、人に見られていたら、なんだか恥ずかしい…。


けど、森奥に隠れ家のようにひっそりとあるホテルのこのラウンジには、今はわたしたちしかいなかった。


教会に続いてまた素敵な場所を見つけてしまった。
これからもたまにここに泊まりに来ようね、と裕彰さんも言っている。



ぶん



スマホが揺れた。式場の人からだ。


「今行きます」と裕彰さんが応じて、わたしもバックを持って立ち上がった。











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