キミに恋の残業を命ずる
「5組目…!?」


思わず振り返って、そしてあやまった。…ごめんなさい、ヴェールを付けてもらっている最中なのに。


スタッフさんは「そうなんですよぉ。ファームの方に宣伝費かけ過ぎて教会までまわらなくて」とほがらかに続けながら、ティアラを髪にそっと差し込んだ。



やっぱりこの教会は今年に入ってオープンしたばかりだそうでまだ地元の人にしか知られていないらしく、わたしたちでなんと5組目。



「しかもこんなにいい季節にあたられたのは初なんですよ。素敵な式になるよう、がんばらせていただきますね」



と言葉を残して、スタッフさんは出て行った。



わたしが今着替えているのはファームに隣接している別棟で、新郎新婦、親族の控え場所になっている。


そうしてその裏口から真っ直ぐに庭園に行けるようになっている。


赤、黄色、ピンク、オレンジ…色鮮やかな花々が規則正しく植えられている庭園は、窓から見るとまるで虹のカーペットのよう。

そして、青々とした芝が虹を縁取るように緑のラインとなり、やがて庭園の中心にある小高い丘に交わる。

その丘には白いコンクリートでステージが造られていて、花に装飾されたアーチがかかり、その下にはカウチが置いてある。

ここが、今日の撮影場所だ。



まだ数組のカップルしか座っていないそこは、春の陽光に照らされキラキラと輝いている。

こんな素敵な場所で一生に残る写真を残せるなんて…うれしいだけじゃとても言い表せない。



「なにをうっとりしてるの?」



すると裕彰さんがやってきた。



「だって、ほんとうに素敵な場所だと思って…」



と言いかけて言葉を失う。



白いタキシード姿の裕彰さん。
息が止まるくらい、素敵だから。



もういつも一緒にいる毎日だけれど、やっぱり信じられなくなってしまう。こんなに素敵な人が、わたしのたったひとりの旦那様だなんて、ほんとうに夢の、夢のようで。



「…こら」



思わず頬を引っ張っていたら、裕彰さんが噴き出した。


だって…なんだか落ち着かないんだもの…。

ドレスは裕彰さんと一緒に選んだし、化粧もヘアスタイルもばっちりセットしてもらったけれど…この人を前にすると、自分が相応しいのかどうか、やっぱり不安になってきてしまう…。



「…きれいだ」



けれども、裕彰さんはゆっくりと近づいて、すこしかすれた声で言った。



「すごくきれいだ、亜海…」



そっとわたしの腰を抱き寄せて続ける。今度ははっきりとした声で。



「この場で誓いの言葉を交わしてしまいたいな。そしたら君は、もうずっと俺だけのものになるのに…」



コルセットで締め上げられた胸にはとても酷な甘い言葉…。

だから頬を染めて、精一杯うなづく。

いつだって、いつまでだって、わたしは貴方だけのものよ。

あいしてる。





引き合うように重なった唇は、いつもよりもずっとやさしく温かかった。

誓いの言葉は明日までお預けだけれど…誓いのキスはフライングしてもいいよね。











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