キミに恋の残業を命ずる
この調子なら、俺は近い内メタボになるんじゃないかと思う。










「裕彰さん、起きて。裕彰さーん」



遠い意識の向こうで声が聞こえる。



俺を眠りから戻すには可愛らしすぎるその声は、「もう…!」と怒った口調を最後に遠のいた。



くん



と思ったら、ふいに鼻先を掠めたのはいい香り。

ネギとしょうがの香ばしい香りが胃を刺激して、



ぱち



しまった…と後悔しても遅い。

しっかり開いてしまった目の前には、エプロン姿の亜海が湯気の立てた皿を持ちながらニコニコ勝ち誇った笑みを浮かべていた。



「よしよし、目覚ましましたねーお利口さんです」



はい起きてねーと、俺の頭をよしよし。



「…俺は犬?」



非難めいた目覚めの第一声をつぶやいたけれど…できたての揚豆腐の香りで目を覚ますなんて、犬そのものじゃないか、俺…。



「ふふふ。おはよう裕彰さん。さぁ、もう朝ごはんはできてるから、はやく顔洗ってキッチンに来てね」

「…うん…」



敗北感を覚えつつのろのろと布団から抜け出す。

完璧に俺を手の上で転がす小柄な勝者は、ラフなスプリングセーターにやわらかなフレアスカート。その上にすこしフリルのついた白いエプロンをまとって完璧な新妻スタイルに身を固めている。

にくらしいくらい、可愛い。



「きゃ…っ」



背を向けたところをちょっと乱暴に抱き寄せて頬にキスした。

不意打ちには不意打ちで。
これで引き分けだ。



「もう…。急にキスするのやめて……」

「だって仕方ないだろ。可愛いだもん」

「……んっ」



いや。

恥じらう可愛さに突き動かされてつい唇も重ねてしまう俺の方が、すでに敗北しているのかもしれない。



なんにせよ。
これで完全に目が覚めた。



「…おはよう。可愛い俺の奥さん」











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