キミに恋の残業を命ずる
果たして数十分後、亜海は無事俺の元に戻ってきた。



「よかった…ぁ!やっぱりここで待ってくれてた。戻ってきて正解…!」



はぁはぁと肩を上下させながらほっとしている亜海。

俺はうんうん、とうなづきながらうながす。


「それで今日は何が起きたの」

「きょ、今日はええと…ごめんなさい…妊婦のお母さんを手伝ってたらつい…」

「妊婦?」



うん、と続きをうながすと、亜海は申し訳なさそうに弁明を始めた。


迷子の男の子がいて、一緒にお母さんを見つけてあげたら、そのお母さんが妊婦さんで一人で重い荷物を持っていて―――



「で、一緒に送迎バスまで運ぶのを手伝ってあげた、と」

「はい…」



ごめんなさい…とぽつりと続いた。



「この前も黙ってはぐれるなって言われたのに…つい…」



しょんぼりうなだれる頭に、ぽん…と手をやる。



「だいじょうぶ。どうせそんなことだろうと思ってたから」

「…」

「だからほら、こうしてのんびり待ってやってただろ」

「…怒って…ない?」

「ないよ」



と言いながら頭を撫でてあげる。ちょっと強い力でごしごし。



「よかった。やっぱり裕彰さんはやさしい」



乱れた髪で、亜海はほんわかした笑顔を浮かべた。

そうすると、俺の心はまた瞬時にふやけてしまう。

やっぱり俺は、この子のこの笑顔にてんで弱い。



今度はやさしく髪を撫でてあげながら認める。

結局のところ、俺はこの子に完璧に溺れているんだな、と。











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