キミに恋の残業を命ずる
ショッピングモールを出て移動し、ランチ。それからは別の家具店をはしごした。
最後に家の近くのスーパーで買い物をして帰宅した。
テーブルしか置いていないリビングには、夕日が差し込んでいた。
今日はかなり歩き回って疲れた。
さんざん見て回ったけれど、これと言う決め手がなくて、結局何ひとつ買ってこられなかった。
ああ、来週もまたソファが無いリビングで一週間を過ごすのか。
でも、まぁいい。
これから亜海と一緒に時間をかけて買い揃えればいい。
ゆっくり、のんびりと。
亜海は干していたシーツを取り込もうと、ベランダに出ていた。
「わあいい香り。裕彰さんもかいでみて」
「んー?」
「お日様の香りがすごくいい匂い。今日はすごく天気がよかったから」
シーツから太陽と柔軟剤のさわやかな匂いが香っていた。
やさしくてほっとなる香り。
亜海と同じだ。
ふいに衝動に駆られて、シーツごと亜海を抱き締めた。
「きゃ…!」
びっくりした亜海の悲鳴に、ベランダの下を歩いていた親子連れが振り向いた。
「あ…ご、ごめんなさい」
恥ずかしげに亜海が頭を下げると、くすりと笑って、また楽しげに手を繋いで歩いていく。
「素敵な家族…」
長さのちがう影が遠のいていくのを見つめながら、亜海がつぶやいた。
「今日の妊婦さんもね、旦那さんが奥さんをすごい心配しながら迎えに来て『あんまり無理するな』って、男の子と一緒に怒ってたんだよ」
「へぇ…」
「親子二人でお母さんを心配しているのが可愛くて…なんだか家族っていいな、って思っちゃった…」
「そう。
…じゃあ、俺たちも家族増やす?」
「え…?…っあ…!」
シーツごと抱きくるむと、亜海を抱きかかえた。
心地よい重みを両手いっぱいに感じながら、思う。
満たされない人生を過ごしてきた。
ずっとひとりで寂しかった。
けれどそれはこの幸福を手に入れるための代償だったのなら、安いものだった。
この子はなんと言うんだろう。
いとおしいもの…大切なもの……いや。
たからものだ。
亜海は誰よりもなによりも大切な、たったひとつの俺のたからものだ。
「や…おろして…っ重いから…!」
「やだ。重くないよ、全然」
「でも…っ」
「今日はずっと外だったから、今夜はずっとふたりっきりで過ごすよ。わかった?」
そう告げて、抱きかかえて行くのは甘く密やかなふたりだけの部屋。
俺だけの、世界にひとつだけのたからもの。
今夜は一晩中閉じ込めて、いっぱいいっぱい可愛がろう。
Fin
最後に家の近くのスーパーで買い物をして帰宅した。
テーブルしか置いていないリビングには、夕日が差し込んでいた。
今日はかなり歩き回って疲れた。
さんざん見て回ったけれど、これと言う決め手がなくて、結局何ひとつ買ってこられなかった。
ああ、来週もまたソファが無いリビングで一週間を過ごすのか。
でも、まぁいい。
これから亜海と一緒に時間をかけて買い揃えればいい。
ゆっくり、のんびりと。
亜海は干していたシーツを取り込もうと、ベランダに出ていた。
「わあいい香り。裕彰さんもかいでみて」
「んー?」
「お日様の香りがすごくいい匂い。今日はすごく天気がよかったから」
シーツから太陽と柔軟剤のさわやかな匂いが香っていた。
やさしくてほっとなる香り。
亜海と同じだ。
ふいに衝動に駆られて、シーツごと亜海を抱き締めた。
「きゃ…!」
びっくりした亜海の悲鳴に、ベランダの下を歩いていた親子連れが振り向いた。
「あ…ご、ごめんなさい」
恥ずかしげに亜海が頭を下げると、くすりと笑って、また楽しげに手を繋いで歩いていく。
「素敵な家族…」
長さのちがう影が遠のいていくのを見つめながら、亜海がつぶやいた。
「今日の妊婦さんもね、旦那さんが奥さんをすごい心配しながら迎えに来て『あんまり無理するな』って、男の子と一緒に怒ってたんだよ」
「へぇ…」
「親子二人でお母さんを心配しているのが可愛くて…なんだか家族っていいな、って思っちゃった…」
「そう。
…じゃあ、俺たちも家族増やす?」
「え…?…っあ…!」
シーツごと抱きくるむと、亜海を抱きかかえた。
心地よい重みを両手いっぱいに感じながら、思う。
満たされない人生を過ごしてきた。
ずっとひとりで寂しかった。
けれどそれはこの幸福を手に入れるための代償だったのなら、安いものだった。
この子はなんと言うんだろう。
いとおしいもの…大切なもの……いや。
たからものだ。
亜海は誰よりもなによりも大切な、たったひとつの俺のたからものだ。
「や…おろして…っ重いから…!」
「やだ。重くないよ、全然」
「でも…っ」
「今日はずっと外だったから、今夜はずっとふたりっきりで過ごすよ。わかった?」
そう告げて、抱きかかえて行くのは甘く密やかなふたりだけの部屋。
俺だけの、世界にひとつだけのたからもの。
今夜は一晩中閉じ込めて、いっぱいいっぱい可愛がろう。
Fin