キミに恋の残業を命ずる
無理だよ…こんないかにも普段からお洒落な料理を食べていそうな人に、庶民派料理なんて披露できるわけがない。ここはなんとしてもつっぱねなきゃ…。
と思ったところで、
「あ、もうこんな時間…!」
目に入った壁時計の時刻に目を見張った。いつのまにか九時を回っていた。
「ごめんなさい、もう最終の時間が」
「最終?ふふ、上手くはぐらかしたね」
「いえ、ほんとにバスの時間が…!」
「わかったよ。返事はまた訊くからそれまで考えといて」
また訊く?
また課長に会えるってこと?
すこし胸が高鳴った。
「送ってくよ」
「いえ、けっこうです…課長はまだお仕事されるんでしょ?そちらを先に…」
「いいから、いいから」
湯呑は…お皿は…ああもう明日でいいや!
急いでパソコンをシャットアウトすると、ジャケットを取ってきて課長とエントランスホールに向かった。
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