キミに恋の残業を命ずる

3

相当茫然としていたのか、疲れ切っていたのか…その夜の帰り道のことは、あまりよく覚えていない。


家に着いた早々化粧も落とさないでベッドにばたんきゅーして、しまいには寝坊をやらかしてしまった今朝だった。


朝は始業時間の三十分前に着いて、オフィス内の掃除やコーヒーをおとしておかなければならない。もちろん、朝にデリケートな先輩たちのためだ。

なのに今朝は十五分も遅れてしまった。

絶望的。今日一日どれだけねっちっこくいびられるだろう、と不安で頭が一杯で、昨晩の余韻にひたる余裕もなくエントランスホールを通り抜ける。


「すみません…!寝坊しちゃって…!」


ロッカーにもよらずジャケットと手袋を持ったままオフィスに駆け込んだ時には、ほとんど泣きそうになっていた。



けど。



「…あれ、誰も…いない…」



低血圧にやられた不機嫌な顔が並んでいるはずのオフィスは、なぜだかすっからかんだった―――
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