キミに恋の残業を命ずる
どうしてあの人が…!?
唖然とするわたしに、先輩は自分だけが知っているかのように得意げな笑みを浮かべた。
「聞いて驚かないでよ?あの人が、あの『幻の課長』なんですって」
「…えええ!!」
「ついにあの社内七不思議のひとつが正体を現した!ってみんな朝から大騒ぎよ。無理ないよね。だって存在自体が怪しまれていた『あの課長』が突然現れるんだもん。しかも、その容姿が想像を裏切る超イケメンだったんだから」
うちの会社には幽霊と同じくらい有名な社内七不思議がある。
「幻の課長」の存在だ。
数年前、IT社会の急速な変化に後れをとり深刻な経営難におちいっていたうちの社は、これまで多くの得意先から得た経験や要望を結集して、今までにない斬新で画期的なソフトウェアを独自開発し、それを中心としたシステムソリューションの企画営業をすすめた。
最後のチャンスとして立ち上げたこの事業は大成功をおさめ、経営状況はV字回復。
これをきっかけに、社はソフトウェア開発に力を入れるようになり、組織改革や人事見直しを経て、より細かなニーズに応えられる商社として業績を上げていった。
今では事業も拡大して、個人向けのパッケージソフトの自社開発、販売もおこない、収益を上げている。
その社の転換点ともなったソフトウェアを開発した人こそが、「幻の課長」と呼ばれるその人だった。