キミに恋の残業を命ずる


誰もいない、真っ暗なオフィス。



カタ…カタカタ…



聞こえるのは、わたしがキーをたたく音だけ。

それが余計にみじめさをあおる。

ああ、きっと今残業してるのって、わたしだけなんだろうなぁ…。



ぶるり



思わず肩を震わせて、パソコンのディスプレイから視線をはずした。
お気に入りのネコちゃんの卓上時計は、夜の八時をさしていた。

どおりで寒いはず…。

秋も終わりを感じる今日この頃。この時間になると冷えこみが厳しくなる。
でも、まだ確認しなければならないデータは、カラカラカラ…と、はるか下までスクロールできた。



「はぁ…」



もう疲れたため息しか出てこない。

真っ暗なオフィスでひとりぼっち。
しかも花の金曜になんてもの好き―――って思われるだろう。

でも、好きでこんなことなんかしていない。




不幸が身にかかったのは、さかのぼれば数時間前のことだった。






< 4 / 274 >

この作品をシェア

pagetop