キミに恋の残業を命ずる
「朝からなんの騒ぎだ。もう始業時間は過ぎているぞ」
とそこへ、低く張りのある声が聞こえて、ざわめいていたラウンジ内が静かになった。
営業部の服部部長がやってきた。
服部友樹(はっとりともき)部長は精鋭ぞろいの我が社でも一、二を争う敏腕で、異例の速さで営業部長についた人だ。
28歳とは思えないような貫録にも近い落ち着いた雰囲気をはなっていて、ちょっと近付き難いけれども周りからの信頼は厚かった。
この騒ぎもやっぱり予想していたみたいだ。
平静な様子で人だかりの中心に進むと、部長は課長の隣に立った。
黒髪にブラックスーツを着るために生まれてきたような美丈夫って感じの服部部長と、栗色の髪にダークグレーのスーツが似合う遊佐課長。
二人が並ぶと、もうドラマの世界に入りこんだような気になる。まさに絶景だ。
しきりに顔を見合わせる社員たちを見回し、部長が口を開いた。