キミに恋の残業を命ずる
課長はラウンジを出て行った。
あとから服部部長も続いて出て行く。
ふたりがいなくなった後のラウンジは、一気に空気が抜けた風船のように、緊張状態から一変した。
みんな早速遊佐課長の話をし始め、平凡な日常に突然起こった異変に、期待と不安を混じらせたざわめきを湧き起こした。
その中にはもちろん嫉妬がこもったものもあるみたいで…。
「ちょっとなにあれ?」
「三森アイツなんなの?あざと過ぎ」
先輩たちの針のような視線がわたしに集中した。
「手袋落として拾ってもらうなんて、古典的過ぎてむしろ脱帽だわ」
「あのコ普段はグズのくせに、ああいうところはキレるのね。ああ怖い、最近のコってほーんと怖いわ」
先輩たちがわざと大きな声で言うから、次第に他の社員たちもわたしに視線を向けだしている。
これ以上注目されるのもたまらない。
逃げるようにわたしはラウンジを出て行った。