キミに恋の残業を命ずる
けれど進学先の大学には、そういう感じの人があまりいなかった。

都市部に近く、各地から生徒を集めるような有名校でもなかったので、ほとんど生徒が地元の人だった。

みんなあか抜けていて、華やかで、都会に住んでいる人ならではの軽さがあって…悪い人たちではないと解かってはいたんだけれど、どうしても心を開くことができなかった。

だから男の人に対しても、どこか距離を感じてしまって…それを克服できないまま社会人になってしまった。


遊佐課長みたいに、きれいで華やかで恋愛感覚がラフそうな人は、まさにわたしが遠いと感じてきた部類の人だった。


だから、あんなことをされたって戸惑いしか覚えない。


ああいう恵まれた人がわたしのような地味女に深い感情を持つはずがないんだ。

昨晩は絶対にからかってやったにちがいない。


こうして立場のちがいがわかった以上、もうわたしが彼に近づくようなことはない。
時差のちがいさえ慣れれば、課長のような敏腕が残業なんてするはずもないだろうし、わたしのような新米と仕事を一緒する機会もゼロだ。


遊佐課長とは昨晩の出会いが最初で最後。


昨晩こそが、夢だったんだ。


だから…早く忘れてしまわなきゃ。

課長の声も笑顔も…キスも。






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