キミに恋の残業を命ずる
掠れた低い声に、わたしは固まってしまった。
たしかにこの体勢は、覆い被さろうとしているように見えるけど…!
「わぁああ!ち、ちがうんですこれはっ…!」
弾けるようにソファから離れた。
「ジャ、ジャ、ジャケットがしわになるといけないと思って…!」
「ふぅんそうなの?でも今の方がしわになりそうだけど」
「あ」
いけない。ついジャケットを手元でぐしゃぐしゃに…!
課長はニコと王子様スマイルを浮かべた。
「ありがと。でも、可愛い女の子のキスでお目覚めってのも、悪くなかったな」
キ…キス…!
こういう時、気の利いた切り返しができれば大人な女なんだろうけど…もう「キス」という単語を聞いただけでわたしの頭はショート寸前。
けど、課長は別にわたしの返事なんか期待していないように、うーんとのびをして立ち上がった。