キミに恋の残業を命ずる
「…それにしても社長、よくそんな子供のワガママみたいなこと受け入れましたよねぇ。わたしのおばあちゃんだったら、ひっぱたいてたところです。甘ったれるな!って」
思わずひとりごちるように呟いたわたしに、課長は言葉をつまらせた。
「う…まぁ、それだけ俺の能力が惜しかった、ってことだろ」
「もちろんそれもあると思いますけど…」
わたしは課長をまじまじと見つめた。
「きっと憎めなかったんでしょうね。大学生の時の課長って、手がかかる可愛い子って感じがしますもの」
「…けっこう言うね、キミ…」
と、眉をしかめつつも、頬はかすかに赤い。
ほら、そういうところが、ですよー。
「でも…それなのに、どうしてみんなと働く気になったんですか?」
「んー?まぁね、いろいろ思うところがあって。俺ももう26だし、いつまでもこんな半ニートみたいなこともしてられないかなーって」
あ、自覚してたんですね。
ふぅと、課長はソファの背もたれに腰を落とした。
「でも慣れないオフィス務めはやっぱり疲れるね。女性はわいわい可愛くていいけど、男どもは俺のこと警戒しているのかなんなのか、とっつきにくいし」
たぶん逆です、課長。
むしろその華麗なる経歴と容姿のせいで男性社員たちは気後れしているんですよ。