キミに恋の残業を命ずる
「しかたないだろ」
床に視線を落としたわたしの頬に、不意に課長が手がふれた。
膝をついてのぞきこんでくるキャラメル色の瞳が、甘く細まって…長い指が、わたしの唇をそっと撫でた。
「気になっちゃったからだよ。キミの…」
…え…?
「キミの……お料理の味が、ね」
…!!
「昨晩お願いしただろ?作りたてほやほやのキミの手料理が食べたいって。ここでならできるよね、料理」
「あ、あれはだから冗談だと…。課長のお口に合うものなんて」
「昨日のおにぎりおいしかったよ。ああいう風でいいんだけどな」
「で、でも」
「俺はキミの残業を手伝ってあげたんだよ?わかってるのかな。一介の事務職員の仕事を二回もやってあげたんだよ、この俺が。
その代償が、おにぎり一個で足りると思う?」
…なんてイジワルな笑み。
うう…でも言うことも否定できない…。
料理を作るだけ…一回作るだけで、免じてもらえるんだよね…。