キミに恋の残業を命ずる
ストロベリーの甘さが口いっぱいに広がるほどに芳醇としているのに、あっさりしていてとても飲みやすい。


「どう?」

「とっても美味しいです。カクテルを作れるなんて、すごいですね」

「すごくなんかないよ。分量さえきちんと守れば、それなりに飲めるものは作れる。キミの料理に比べたら大したものじゃないさ」

「そんな…わたしの方こそたいしたもの作ってないですし」

「料理は誰かにならったの?」

「あ、はい。実家のおばあちゃんに。わたしの家、両親が共働きでお料理はいつもおばあちゃんが作ってくれてたんです。
やさしいけど厳しいおばあちゃんで、『女の子はまずは料理だ』って小さい頃から手伝いも兼ねて教えられました。おかげで一人暮らしをはじめた時も、困ることは全然なかったですけど」

「いいおばあちゃんだね。…そっか、だからか」

「?」

「おにぎりでも思ったけど、なんというかキミの作ったご飯って味の他に温かさを感じさせる気がするんだ。たぶん、「家庭の味」って言うんだろうね。俺にはけっこう新鮮なんだ。そういうのを知らずに育ったから」


どういう意味だろう。

怪訝に思うと、課長はテーブルにカクテルを置いて、思い出すように続けた。
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