キミに恋の残業を命ずる

「…わたし、そろそろ帰りますね」


にわかに不安になってきて、そそくさと立ち上がった。
玄関にむかおうとしたけれど。



ぱしっ



手を掴まれた。



課長がにこやかに笑っていた。


「だから帰るのはまだ早いって言ってるだろ?本題が残ってるんだけどな」


本題?これから?


ひきつった顔を浮かべているわたしに、キャラメル色の瞳がたくらむように細まった。


「まさかご飯作ってもらうだけで免じてもらえると思った?ビジネスの世界わかってないね。やっぱりダメ社員だよ、キミは。あんなこと、今から提示する本題の前振りに過ぎなかったんだけど?」

「ど、どういう…きゃっ」


ぐい、と手を引かれてつんのめった。
酔ってふらつき始めた身体は、あっけなくバランスを失って倒れ込む。

課長の腕の中に。
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