キミに恋の残業を命ずる
「…今からキミに、特別な残業を命じる」
よく聞け、とのばかりに、課長の指がわたしのあごを持ち上げた。
「キミはこれから毎日、この部屋に来て、こうして俺に尽くすこと」
つ、尽くす…!?
「そ…それって、お手伝いさんみたいに働けってことですか?」
「ふふ…お手伝いさんか。まぁそう言うことになるのかな。俺だけのお手伝いさん」
愉快そうに言いながら、指でわたしの頬を撫でる。
くすぐったくて…胸が苦しくて、息が詰まりそうになりながら、わたしはすこしかすれがちに低くなった課長の言葉を聞く。
「さっきも言ったけど、俺はこれから多忙になる。きっと身の回りのことも満足にできないほどだと思う。
だから、俺の言うことをなんでも聞いてくれて、俺に徹底的に尽くしてくれる有能な人材がほしいんだ。
特に料理が得意な人物が希望でね。疲れて帰った夜には、栄養があって、美味しくて、温かくなるものを作ってくれる人物…キミが最適だと思った」
「…」
「キミはこれから毎晩、退勤後にこの部屋に来て料理を作る。そして俺とふたりで一緒に食べるんだ」
もう、なにを言っているのか、解からない。
酔いのせい?
それとも、課長のこの糖度たっぷりな瞳のせい…?