キミに恋の残業を命ずる

「どうしてわたしなんですか…。他にも尽くしてくれる女の人はいるでしょ…」

「そんなの決まってるよ。キミじゃなきゃ、ダメだからだ」


課長はわたしを解放すると、キッチンに行って冷蔵庫からボトルを取り出した。


「悪いのは、そう思わせたキミだよ」


ポン、と小さく音がして、課長は新しく出したグラスに中身をそそいた。



「じゃ、契約成立。もう一度乾杯といこうか」


そうして差し出されたシャンパンを、


もう、どうにでもなれ。


と自棄になって、ぐいっとあおった。


芳醇なアルコールを含んだ炭酸は、波乱な日々を暗示するかのように、強い刺激を喉に残したのだった。














< 89 / 274 >

この作品をシェア

pagetop