キミに恋の残業を命ずる
「そうか、ならもう少し寝ているといいよ。大丈夫、時間にはまだ余裕があるから。なにせここは徒歩ゼロ分だからね」


と、いたずらっぽい笑みを浮かべると「薬を持ってくる」と言い残して課長は出て行った。



やさしいな、課長…。

昨日のいじわるさが嘘みたいだ。



壁の時計を見ると七時。

これから家に帰ってシャワー入って着替えて…はできない時間だなぁ…。

このまますこし、いさせてもらうしかないかなぁ…。


なんとなく、起き上がって窓をのぞいてみた。

直射日光とともに、都会の早朝の光景が飛び込んできた。

さすがにこの時間はまだサラリーマンが少なく、閑散としていている。
いつも車や働く人で溢れているのに、早朝だとこんなにちがうものなんだな。


わたしのアパートは最寄のバス停からすこし歩いたにぎやかな住宅街にあった。

学生さんやサラリーマンが一斉に駅に向かう朝は「みなさん共にお仕事がんばりましょう!」って気になるし、買い物帰りの親子が手を繋いで家路を急ぐ夕方は「今日も一日お疲れ様でした」ってホッとなる。


でもここは…まるでゴーストタウンみたいで、なんだかとても寂しい。

課長は…

毎朝この広い部屋の中でひとり、こんな光景を眺めているのかな…。
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