キミに恋の残業を命ずる

「亜海ちゃん」


急に呼ばれてドキリと鳴った。

課長が立っていた。
まるで洗練された執事のように、大きなトレイを持って。


「頭痛薬を飲む前になにかお腹にいれた方がいい。あっさりしたものなら食べられる?」


掲げて見せたトレイには、ヨーグルトが乗ったパインとパンケーキがあった。
特にパンケーキは焼きたてのふわふわで、ハチミツの甘酸っぱい香りがただよってくる。


「わぁ…もしかして課長が作ったんですか?」

「そうだよ」

「お料理苦手だったんじゃ?」

「苦手じゃないよ。作らないだけ。でも今朝はキミのために作った。無理に飲ませたお詫びをしようと思って」


やっぱり、今朝の課長はやさしいな。
あんな「命令」を言ったのが嘘みたい…。
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