キミに恋の残業を命ずる
「どう?」

「すっごく美味しいです…なんだか」


思わずくすりと笑った。


「なんだか、すっごく幸せな感じ」


課長はにっこりと笑った。

朝日に照らされたその笑みは、わたしを初めて救ってくれた夜のやさしい笑顔と重なった。


うん。
やっぱり、やさしい人なんだ。


もしかして、昨晩は課長も酔っていたのかもしれない。
それでからかい半分で、あんなこと言ったんじゃ。


「そう言ってもらえて俺のほうがずっと幸せだよ」

「そんな…。勝手に酔いつぶれてお世話になって朝食までご馳走になるなんて…わたし恥ずかしいくらいです」

「そんなこと気にしなくていいのに」


そう言いながら、不意に課長の指がわたしの唇にふれた。


「ついてるよ」

「え…?」

「ハチミツ」


そして拭うと、その指をチュッと吸った。


「え…っ、あ、ありがとうございます…」

「ううん。可愛いから大丈夫」


そう言って浮かべた笑顔は、やっぱりキラキラ王子様のものだった。

うん、そうだ。
きっとそうにちがいない。
このやさしさが、本当の課長なんだ。



けど。

そう思ったわたしを嘲笑うように、課長の笑顔が冷やかな微笑に変わった。



「さて、サービスタイムはここまでにしとこっかな」


え?


「覚えてる?昨日の『命令』」
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