キミに恋の残業を命ずる
冷水を浴びせられたかのような変貌に、わたしは力なくカテラリーをおいた。


「キミは最後うなづいたよね。そして、雇用関係成立の乾杯を俺と交わした」

「…あんなの返事じゃないです…。卑怯です」

「卑怯もなにも、返事なんて求めてない。これは命令だと言ったろ?キミに拒否の選択肢なんてない」


これを、とトレイの上に置かれたのは、この部屋の鍵だった。


「今夜からくるんだ」


わたしはトレイをベッドの隅に置いた。


「あなた、最低です」


そしてベッドから立ち上がった。


「っ…」


けど、急に動いたせいで、頭がずきりと痛んでよろめく。
すかさず手が伸びてきて、支えてくれた。

力強い手に腰を抱かれ、わたしはびくりとなった。

そして、それが合図のように、胸が急にドキドキと痛みだした。


見上げた先に、キャラメル色の瞳と出会う。


逃がさないよ。


そう言うように、その目は鈍く光をはなっていた。
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