キミに恋の残業を命ずる
胸がさらに痛む。
ドキドキと弾けそうになる。
腰にふれる手が、熱い。


「離してください…!」

「じゃあ、俺の『命令』を受ける?」

「わかりました、受けます、受けますから…」


手が離れて、やっと解放された。
胸の痛みが、ゆっくりとおさまっていった。



「…本当にお料理をしに行くだけですよね…?それ以外もそれ以上のこともしなくていいんですよね」

「ん?例えばどういうこと?」

「…」


墓穴を掘った。
ほんとに、どこまでも人を食ったヤな人…!


もう、こうなったら自棄になるしかない。

たしかに、わたしに分が悪いわけじゃない。
理不尽に押し付けられた残業を課長がやってくれるというのは本当なんだろうし。

お互い慣れない仕事に悪戦苦闘するよりも、得意なことで能力を発揮する方が効率がいい。
適材適所。ビジネスの基本ってやつだ。

そう、これはビジネスだ。

お互いの不得手を補ういわば利害関係が一致しただけの仕事の付き合い。それ以外でも、それ以上でもない。

そう考えれば、なんだか気が楽になってきた。
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