レンタル夫婦。
***
「ふー……間に合った……」

8時50分。
何とかオフィスのある階までついて、ホッと息を吐く。

「お、中原おはよう。……めずらしくギリギリだな?」
「はは、おはようございまーす」

荷物をロッカーへと預けていつもの持ち物を持ちオフィスに行くと、すれ違う先輩にそう声をかけられ適当に挨拶する。
ふぅっと息を吐いて何とか始業前に席へとつく。
パソコンの電源を入れて仕事の準備を始めた。

気を緩めたら湊のことを考えてしまいそうで、頭を振り何とか忘れようと努力する。

午前中は結構忙しいこともあって、何とか乗り切ることが出来た。



**
「おつかれー今日何食べる?」
「うーん……なんでもいいや」

お昼休みになると、声をかけられ席を立つ。
声をかけてきたのは、同期の永原桃子……桃ちゃん。
黒髪を束ねたさっぱり系美人。
年齢が同じで入社時期も同じだったため、すぐに仲良くなった。

「あ、じゃああそこ行ってみない? 先週出来たカフェ」
「いいね、いこっか」

私達の会社は街中にあるため、外に出て食べる人が多い。私と桃ちゃんも大体そう。

「やっぱ混んでるねー」
「戻るの間に合うかな」

二人で新しく出来たカフェへと向かうと、お昼時ということもあり行列が出来ていた。
その列の最後尾に並びながら時計を見る。
あと50分。15分前には席を立ちたい所だ。

「今日みひろさー、ぎりぎりに来てたじゃん? 寝坊?」

そんなことを突然振られて少しだけ焦る。

「うーん……? まぁ、そんなとこ?」
「? どした? ……あ、さては昨日、またライブDVDでも見て夜更かししたな?」

にやりと笑って問う桃ちゃんに、ぎこちない笑みを作って頷いた。

「そ、そうなんだ。この前出たやつ、見てたら遅くなっちゃって」
「そっかーまぁほどほどにしときなよ? そうだ、今日残業なかったらどっか寄ってく?」
「あー……えっと、……今日は、ちょっと帰るかな。ごめん」
「そう? ならまた今度いこ」

桃ちゃんごめん。
そう心の中で謝る。
湊のことはどこまで口にして良いのか分からない。
まだ実験段階のサンプル取り、という所らしく、なるべく余計なことは言わない方が良い気がした。



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