レンタル夫婦。
**
――残り、24日。
朝起きると、湊は寝ているみたいだった。
靴があるから多分そう。
でも、いつ帰ったのかは全く分からなかった。
一応簡単に朝ごはんだけ作って、メモと一緒に置いておいた。
メモには余計なことは書きたくなくて、『疲れてるみたいだし、無理しないでね』とだけ書いておいた。
まだ、気持ちはざわざわしていたけれど、今日は早く帰るっていう言葉があるからそれを楽しみに乗り切れる気がした。
帰ったら何を作ろうかな、とか。今日は上手く話せるかな? だとか。
あとは昨日ありささんと話して思ったことを伝えなきゃ、訊かなきゃって、ずっと湊のことばかり考えて過ごす。
仕事には全然集中出来なかった。
それでも特にミスなどはなく無事に就業時間になる。
「みひろ、良かったら飲み行かない?」
私が片付けをしているともう自席から離れたらしい桃ちゃんがやってきて誘われた。
正直お酒を飲みたい気持ちもあったけど。
頭の中にはずっと、昨日の湊からのメッセージがあって。
今日は早いって言葉。
それだけがぐるぐる回ってる。
……だから、ごめん、桃ちゃん。
「来週営業部との飲みでしょ? 今あんまりお金ないから。来週のためにやめとく」
ちょっとずるいかもしれないけれど、来週の約束を盾に使った。
桃ちゃんはそっかぁと残念そうに肩を落とす。
「でも2週続けてはきついよね。その分来週飲もー」
それでも明るく返してくれた。
さっぱりしているのは桃ちゃんの良いところだと思う。
けれど私はまた、罪悪感に襲われチクリと胸が痛んだ。
それでも納得して貰えたことにホッとしてしまう。
適当にその場をやりすごして、そのまま私は帰路に着いた。
最寄駅まで着いて、スーパーへと向かう。
少しだけ迷って……この前止めた少しだけ高い牛肉を手に取った。
(3日ぶりだし……良いよね?)
なんて誰にでもなく言い訳してそれを買った。
ちょっとだけ上機嫌でマンションまでの道のりを進む。
扉を開けて中に入ると湊はまだいなかった。
時刻は19時になったばかり。
月曜と同じなら20時頃帰るかな? と思って、少しだけ気合いを入れて作っていく。
牛肉の赤ワイン煮込み。圧力鍋を使って時間短縮をしながらも、じっくりと火を通してお肉を柔らかくしていく。
野菜もたくさん入れて煮込んで、トマト缶や生クリームで酸味やコクを足す。
大分煮込んで、お肉がほろほろになった所で味見をする。
自分でも良く出来た、と思ってつい顔がにやける。
――料理が完成しても、湊は帰ってこなかった。
……時計の針だけが進む。
やっぱり湊は帰ってこない。
連絡も来ない。
『今日も遅くなる?』
って、それだけを送ってみたけれど、返信は来ないしそれを読んだ気配もない。
「何か……私ばっかり張り切ってるみたい」
仕事なら、仕方ないって思う。
私と仕事どっちが大事!? なんて迫るつもりもない。……でも、早く帰るって言ったのだから、その約束は守って欲しかった。
急な残業になったのだとしても一言で良いから連絡が欲しかった。
そんな風に考えているうちに急に悲しくなって、食欲もなくなる。
折角作った料理を鍋にそのまま放置して、私はテレビを付けた。
適当な番組を適当に見る。
時計の針が更に進む。
21時……22時、と短針が動いても、やっぱり湊は帰ってこなかった。
「……どこが早いの」
ぽつり、口から声が零れる。
こんなことなら飲みに行けば良かったかもしれない、なんて考えてしまう。
何時に帰るって、約束したわけじゃない。
そんな風に、どんどんダメな方へと考える。
何だか泣きそうになってしまう。
だから、お風呂に入って眠ることにした。
来ない湊をいつまでも待っていたって仕方がない。
――残り、24日。
朝起きると、湊は寝ているみたいだった。
靴があるから多分そう。
でも、いつ帰ったのかは全く分からなかった。
一応簡単に朝ごはんだけ作って、メモと一緒に置いておいた。
メモには余計なことは書きたくなくて、『疲れてるみたいだし、無理しないでね』とだけ書いておいた。
まだ、気持ちはざわざわしていたけれど、今日は早く帰るっていう言葉があるからそれを楽しみに乗り切れる気がした。
帰ったら何を作ろうかな、とか。今日は上手く話せるかな? だとか。
あとは昨日ありささんと話して思ったことを伝えなきゃ、訊かなきゃって、ずっと湊のことばかり考えて過ごす。
仕事には全然集中出来なかった。
それでも特にミスなどはなく無事に就業時間になる。
「みひろ、良かったら飲み行かない?」
私が片付けをしているともう自席から離れたらしい桃ちゃんがやってきて誘われた。
正直お酒を飲みたい気持ちもあったけど。
頭の中にはずっと、昨日の湊からのメッセージがあって。
今日は早いって言葉。
それだけがぐるぐる回ってる。
……だから、ごめん、桃ちゃん。
「来週営業部との飲みでしょ? 今あんまりお金ないから。来週のためにやめとく」
ちょっとずるいかもしれないけれど、来週の約束を盾に使った。
桃ちゃんはそっかぁと残念そうに肩を落とす。
「でも2週続けてはきついよね。その分来週飲もー」
それでも明るく返してくれた。
さっぱりしているのは桃ちゃんの良いところだと思う。
けれど私はまた、罪悪感に襲われチクリと胸が痛んだ。
それでも納得して貰えたことにホッとしてしまう。
適当にその場をやりすごして、そのまま私は帰路に着いた。
最寄駅まで着いて、スーパーへと向かう。
少しだけ迷って……この前止めた少しだけ高い牛肉を手に取った。
(3日ぶりだし……良いよね?)
なんて誰にでもなく言い訳してそれを買った。
ちょっとだけ上機嫌でマンションまでの道のりを進む。
扉を開けて中に入ると湊はまだいなかった。
時刻は19時になったばかり。
月曜と同じなら20時頃帰るかな? と思って、少しだけ気合いを入れて作っていく。
牛肉の赤ワイン煮込み。圧力鍋を使って時間短縮をしながらも、じっくりと火を通してお肉を柔らかくしていく。
野菜もたくさん入れて煮込んで、トマト缶や生クリームで酸味やコクを足す。
大分煮込んで、お肉がほろほろになった所で味見をする。
自分でも良く出来た、と思ってつい顔がにやける。
――料理が完成しても、湊は帰ってこなかった。
……時計の針だけが進む。
やっぱり湊は帰ってこない。
連絡も来ない。
『今日も遅くなる?』
って、それだけを送ってみたけれど、返信は来ないしそれを読んだ気配もない。
「何か……私ばっかり張り切ってるみたい」
仕事なら、仕方ないって思う。
私と仕事どっちが大事!? なんて迫るつもりもない。……でも、早く帰るって言ったのだから、その約束は守って欲しかった。
急な残業になったのだとしても一言で良いから連絡が欲しかった。
そんな風に考えているうちに急に悲しくなって、食欲もなくなる。
折角作った料理を鍋にそのまま放置して、私はテレビを付けた。
適当な番組を適当に見る。
時計の針が更に進む。
21時……22時、と短針が動いても、やっぱり湊は帰ってこなかった。
「……どこが早いの」
ぽつり、口から声が零れる。
こんなことなら飲みに行けば良かったかもしれない、なんて考えてしまう。
何時に帰るって、約束したわけじゃない。
そんな風に、どんどんダメな方へと考える。
何だか泣きそうになってしまう。
だから、お風呂に入って眠ることにした。
来ない湊をいつまでも待っていたって仕方がない。