レンタル夫婦。
5章:初デート
――残り、23日。
朝日が窓から差し込む。
それを浴びて目覚ましのアラームよりもずっと早く目を覚ました。
……今日は、湊とデートをする約束をしてる。それだけで、気が高ぶって全然眠れなかった。
でも、あんまりに楽しみにしているとは知られたくなくて、起きてからなるべくベッドの音を立てないように過ごした。
スマホを見てSNSをチェックして、静かに音を立てないようにストレッチをしたりして。
時計の針が進んで、6時半を過ぎた頃、私は漸くベッドから抜け出て廊下へと出た。
そのまま洗面台へ向かって顔を洗う。
湊はたぶん、また寝ていると思う。
家を出るのは9時って言っていたから……まだ時間がある。
シャワー浴びちゃおっかな、って思って出来るだけ静かにシャワーを浴びた。
湊が起きてこないのにホッとして、簡単に身支度を整える。
化粧も済ませて、一度部屋に戻り、クローゼットの中身を見回した。
「……何、着ていったらいいんだろ」
湊とは毎日顔を合わせているくせに、改めてデートって言われると悩んでしまう。
急に派手な格好をするのもおかしいし、けれどあまりに地味な服装もプライドが許さなかった。
念のため、スマホで天気と気温を確認する。
最高気温は20℃。そこまで寒くはない。
服を何着か出してみて、見比べる。
色々悩んで、この前買ったばかりの、ミディ丈のフリルスカートを選んだ。
色は殆ど白に見えるぐらいの薄いピンク。
これにグレーのニットを合わせて、薄手のコートを羽織ることに決めた。
そのまま玄関に向かって、シューズボックスの中から靴を選ぶ。
高めピンヒールの方が似合うけど……歩くかもしれないから、ヒールの低いパンプス。
色は出来るだけスカートに近いものにした。
また自室に戻って、今度はバックを合わせて見る。
全体的に色味が少ないから、黒のバッグにした。
準備を終えてキッチンへ向かう。
昨日の料理をどうしようか迷っていると、足音がして扉の開く音が聞こえた。
「あ、おはよー湊」
眠そうにやってきた湊に出来るだけ普通に声をかける。
なるべく明るくというのを意識したら上手く出来たみたいで、湊は小さく欠伸をしてから答えた。
「ん、おはようみひろさん。もう準備出来たんだ? 早いね」
「平日と同じ時間に起きちゃうんだ。湊、朝ごはん食べる?」
「そうなんだ。オレは出来るだけ寝てたいタイプだから羨ましいよ。朝ごはんはちょっとだけ貰おうかな。折角作ってもらったし。……顔洗ってくる」
「ん、じゃあ用意しとくね」
廊下へと出ていく湊を見送って、お鍋の中身を温め器に少量を盛りつける。
昨日作ったおかずにご飯を少しだけ盛って二人分をテーブルに並べた。
丁度並べ終わる頃、湊が戻ってくる。
「わ、おいしそうな匂い。メニュー、何?」
「えっと……牛肉の赤ワイン煮込みだよ」
「え、それみひろさんが作ったの?」
「うん……」
「みひろさんってさ、料理得意だよね」
「得意ってほどじゃないと思うよ? 普通には作るけど」
「でも全部うまいじゃん? オレ、相手がみひろさんで本当幸せだよ」
席について料理を見て湊が笑う。
本当に……どうしてこんなに簡単に言えるんだろう。
また心臓が鳴り始めて、心がざわつく。
誤魔化すように私も向かい側に腰を下ろして言った。
「冷めないうちに食べよっか」
「そうだね。いただきます」
そして湊は箸を取って食べ始める。
私も頂きますと呟いて食べ始めた。
「そうだ、今日はどこに行くの?」
半分ほど食べた所で問う。
湊は顔をあげて答えた。
「神奈川方面。ベタだけど、定番回って観覧車乗ったりしようと思って。……そういうのがもし嫌なら、他に考えるけど」
「ううん、嫌じゃないよ! 今まで行ったことなかったし……楽しみ」
よくきくデートスポット。
行く機会がなかったから、本当にちょっと楽しみだった。
てっきり近場で映画でも観るのかな、なんて思っていた私は予想外の遠出にわくわくとしてしまう。
「ごちそうさま」
それから特に何か会話するでもなくお互いご飯を食べ終え、私が食器を片付けている間に湊が出かける準備をする。
約束の9時10分前ぐらいに湊はリビングへと戻ってきた。
「おまたせ。オレはもう出れるけど……みひろさんはどう?」
「私も大丈夫だよ、じゃあ行こっか」
……何だか、変な感じ。
行ってきます、でも行ってらっしゃい、でもなくて。
外で待ち合わせをするでもなくて出かけるなんて初めてで、何とも言えない気持ちになる。
家を出て最寄り駅まで歩き、湊の示した電車へと乗り込む。
中は意外と混んでいて、人に押されるようにして奥の扉の前まで移動した。
平日の通勤ラッシュに比べたらよっぽどマシだけれど、土曜のこの時間にもこんなに人がいるのかって少しだけビックリする。
「結構人いるね」
「そうだね。……大丈夫?」
「うん、平気」
隣の人とぶつかりそうになってさりげなく湊に庇われる。
改めて周りを見渡すと、休日だからか家族連れや恋人同士のような組み合わせが多かった。
それを見て私と湊がどう映るのか、急に気になってくる。
「あと3駅くらいで乗り換えるよ」
「うん、分かった」
それから、言われた駅で降りて別の電車に乗り換える。
移動中は混雑していることもありあまり会話はしなかった。
それでも、人混みの中でさりげなく庇ってくれる湊に正直ドキドキした。
1時間程乗り継ぎを繰り返して、目的の駅に着いた。
湊について改札を出る。
やっぱりここも混んでいて人の波に呑まれそうになると、湊が私の右手を掴んだ。
「みひろさん、……こっち」
そのまま手を引かれて湊について歩く。
……湊に触れられるのは初めてじゃないのに、場所が変わっただけでいつも以上に鼓動が早まる。
「ね、ねぇ湊、最初はどこに行くの?」
何か話をしなきゃって思って切り出す。
湊は顔だけ振り返って子供みたいに笑った。
「着いたら、分かるよ」
朝日が窓から差し込む。
それを浴びて目覚ましのアラームよりもずっと早く目を覚ました。
……今日は、湊とデートをする約束をしてる。それだけで、気が高ぶって全然眠れなかった。
でも、あんまりに楽しみにしているとは知られたくなくて、起きてからなるべくベッドの音を立てないように過ごした。
スマホを見てSNSをチェックして、静かに音を立てないようにストレッチをしたりして。
時計の針が進んで、6時半を過ぎた頃、私は漸くベッドから抜け出て廊下へと出た。
そのまま洗面台へ向かって顔を洗う。
湊はたぶん、また寝ていると思う。
家を出るのは9時って言っていたから……まだ時間がある。
シャワー浴びちゃおっかな、って思って出来るだけ静かにシャワーを浴びた。
湊が起きてこないのにホッとして、簡単に身支度を整える。
化粧も済ませて、一度部屋に戻り、クローゼットの中身を見回した。
「……何、着ていったらいいんだろ」
湊とは毎日顔を合わせているくせに、改めてデートって言われると悩んでしまう。
急に派手な格好をするのもおかしいし、けれどあまりに地味な服装もプライドが許さなかった。
念のため、スマホで天気と気温を確認する。
最高気温は20℃。そこまで寒くはない。
服を何着か出してみて、見比べる。
色々悩んで、この前買ったばかりの、ミディ丈のフリルスカートを選んだ。
色は殆ど白に見えるぐらいの薄いピンク。
これにグレーのニットを合わせて、薄手のコートを羽織ることに決めた。
そのまま玄関に向かって、シューズボックスの中から靴を選ぶ。
高めピンヒールの方が似合うけど……歩くかもしれないから、ヒールの低いパンプス。
色は出来るだけスカートに近いものにした。
また自室に戻って、今度はバックを合わせて見る。
全体的に色味が少ないから、黒のバッグにした。
準備を終えてキッチンへ向かう。
昨日の料理をどうしようか迷っていると、足音がして扉の開く音が聞こえた。
「あ、おはよー湊」
眠そうにやってきた湊に出来るだけ普通に声をかける。
なるべく明るくというのを意識したら上手く出来たみたいで、湊は小さく欠伸をしてから答えた。
「ん、おはようみひろさん。もう準備出来たんだ? 早いね」
「平日と同じ時間に起きちゃうんだ。湊、朝ごはん食べる?」
「そうなんだ。オレは出来るだけ寝てたいタイプだから羨ましいよ。朝ごはんはちょっとだけ貰おうかな。折角作ってもらったし。……顔洗ってくる」
「ん、じゃあ用意しとくね」
廊下へと出ていく湊を見送って、お鍋の中身を温め器に少量を盛りつける。
昨日作ったおかずにご飯を少しだけ盛って二人分をテーブルに並べた。
丁度並べ終わる頃、湊が戻ってくる。
「わ、おいしそうな匂い。メニュー、何?」
「えっと……牛肉の赤ワイン煮込みだよ」
「え、それみひろさんが作ったの?」
「うん……」
「みひろさんってさ、料理得意だよね」
「得意ってほどじゃないと思うよ? 普通には作るけど」
「でも全部うまいじゃん? オレ、相手がみひろさんで本当幸せだよ」
席について料理を見て湊が笑う。
本当に……どうしてこんなに簡単に言えるんだろう。
また心臓が鳴り始めて、心がざわつく。
誤魔化すように私も向かい側に腰を下ろして言った。
「冷めないうちに食べよっか」
「そうだね。いただきます」
そして湊は箸を取って食べ始める。
私も頂きますと呟いて食べ始めた。
「そうだ、今日はどこに行くの?」
半分ほど食べた所で問う。
湊は顔をあげて答えた。
「神奈川方面。ベタだけど、定番回って観覧車乗ったりしようと思って。……そういうのがもし嫌なら、他に考えるけど」
「ううん、嫌じゃないよ! 今まで行ったことなかったし……楽しみ」
よくきくデートスポット。
行く機会がなかったから、本当にちょっと楽しみだった。
てっきり近場で映画でも観るのかな、なんて思っていた私は予想外の遠出にわくわくとしてしまう。
「ごちそうさま」
それから特に何か会話するでもなくお互いご飯を食べ終え、私が食器を片付けている間に湊が出かける準備をする。
約束の9時10分前ぐらいに湊はリビングへと戻ってきた。
「おまたせ。オレはもう出れるけど……みひろさんはどう?」
「私も大丈夫だよ、じゃあ行こっか」
……何だか、変な感じ。
行ってきます、でも行ってらっしゃい、でもなくて。
外で待ち合わせをするでもなくて出かけるなんて初めてで、何とも言えない気持ちになる。
家を出て最寄り駅まで歩き、湊の示した電車へと乗り込む。
中は意外と混んでいて、人に押されるようにして奥の扉の前まで移動した。
平日の通勤ラッシュに比べたらよっぽどマシだけれど、土曜のこの時間にもこんなに人がいるのかって少しだけビックリする。
「結構人いるね」
「そうだね。……大丈夫?」
「うん、平気」
隣の人とぶつかりそうになってさりげなく湊に庇われる。
改めて周りを見渡すと、休日だからか家族連れや恋人同士のような組み合わせが多かった。
それを見て私と湊がどう映るのか、急に気になってくる。
「あと3駅くらいで乗り換えるよ」
「うん、分かった」
それから、言われた駅で降りて別の電車に乗り換える。
移動中は混雑していることもありあまり会話はしなかった。
それでも、人混みの中でさりげなく庇ってくれる湊に正直ドキドキした。
1時間程乗り継ぎを繰り返して、目的の駅に着いた。
湊について改札を出る。
やっぱりここも混んでいて人の波に呑まれそうになると、湊が私の右手を掴んだ。
「みひろさん、……こっち」
そのまま手を引かれて湊について歩く。
……湊に触れられるのは初めてじゃないのに、場所が変わっただけでいつも以上に鼓動が早まる。
「ね、ねぇ湊、最初はどこに行くの?」
何か話をしなきゃって思って切り出す。
湊は顔だけ振り返って子供みたいに笑った。
「着いたら、分かるよ」