レンタル夫婦。
**
家に帰って、湊が作ってくれたお茶漬けを食べた。
それを片付けて順番にお風呂に入る。
それから何となくソファーでまったりしていると、湊が切り出した。

「今日は有難う。楽しかった」
「うん、私もすごく楽しかった」
感謝の気持ちと嬉しさをこめて笑顔を向けると、湊は優しく私の頭を撫でる。

「良かった。……明日もどっか行く?」

瞬間、私はつい固まってしまう。
明日は霰のライブの日だった。
そのことをすっかり忘れていた上に、湊には言い辛い。

「えーと……明日は、」
つい声が高くなり視線が泳ぐ。
湊は困ったような声を出した。

「用事? それなら無理強いしないけど」
「……うん、ごめん。友達と、約束があって」
「そっか。それなら気にせず行って来て」
「うん、ありがと……ごめん」
「だから。すぐ謝るのはなしだって」

こつんと軽く額を小突かれて私は内心慌てた。
正直に言った方が良いような気持になって、それを吹き飛ばすように頭を振る。

「えっと……今日はそろそろ寝ようかな。本当、色々有難う」
「うん、じゃあおやすみ」

笑う湊に私も微笑みを返して自室へと戻る。
そのままベッドに倒れ込んだ。

(物販は……諦めるしかないよね)

いつもなら、始発で行って物販に並んだりもする。
でも、それだと湊に怪しまれそうで、それはやめた。
少し遅めにアラームをかけて電気を消す。
目を閉じると、今日一日の思い出が蘇ってきて、ついつい口許が緩んだ。
< 27 / 61 >

この作品をシェア

pagetop