レンタル夫婦。
***
――残り、21日。
その日は、いつもよりもずっと早起きをした。
夫婦らしいこと、って考えて分かりやすくお弁当を作ろうと思ったのだ。
愛妻弁当とまではいかなくても、栄養あるものを食べて欲しくて。
彩も考えて二人分のお弁当を作った。
それが出来上がるとちょうど湊が起きてきて、私はそれを差し出した。
「おはよう湊。あのね、今日……お弁当作ってみたんだ。もし良かったら食べてくれる?」
重いとか、うざいとか思われたらどうしようって気持ちも少しあって。
ドキドキと返事を待つ。
湊は何も言わない。
怒らせた? って慌てて顔をあげると、今まで見たことのない表情がそこにあった。
「湊……?」
「え、あ、……ごめん。ありがと。すごい嬉しい」
「本当?」
「うん。……こういうの、初めてだから。本当、うれしい」
湊がはにかんだように笑う。
何だかそれだけでもう、今日の早起きのおつりが来たみたいだった。
嬉しくなって笑顔を返す。
「良かった。夜は食べたいものある?」
「そうだな……じゃあ、今日は魚で」
**
朝のやり取りを思い出しながら会社での時間を過ごす。
何だか足取りも軽くて、気持ちがふわふわ飛んでいってしまいそうだった。
「今日みひろめちゃくちゃ機嫌いいね。何かあった?」
「んー」
昼休み、そう問う桃ちゃんにふふっと笑って誤魔化す。
「どうしたの? 怖いんだけど」
「えっとねー……昨日の霰のコンサートが良かったんだ」
湊のことは言えなくて、そう伝える。と、桃ちゃんはなるほど、と納得した。
「そういえばそんなことも言ってたね。楽しめたなら何より」
そう言われて複雑な気持ちになる。
本当は桃ちゃんに全て言ってしまいたい。
今度ありささんに訊いてみようかな?
仕事が終わって、今日も定時であがる。
それから少しだけ急いで帰路に着いた。
大分慣れた電車に乗って、最寄り駅で降りる。
ご機嫌なままスーパーに寄って湊のリクエストの魚を買い、家に帰ってそれをムニエルにした。
20時を回る頃、湊は帰ってきた。
「おかえり湊!」
「ただいまみひろさん。お弁当ありがと、すごいうまかった」
帰るなりそう笑ってお弁当箱を返され心臓がきゅんっと高鳴った。
嬉しそうな湊を見るのが嬉しくてたまらない。
「喜んでもらえて良かった! 明日も作るから。……晩御飯ももう出来るし、手、洗ってきて」
一週間経って慣れたのか、昨日の喧嘩が良かったのか。
晩御飯の会話がとても弾んだ。
他愛もないことのはずなのにすごく楽しく感じて。
ご飯を食べ終えて食器を片付けて、交互にお風呂に入って。
あっという間に眠る時間になった。
寝るのが少しだけ惜しく感じて、……そしたらそれが伝わったのか、湊はそっと私の頬にキスをした。
それが嬉しくって上機嫌で部屋へと戻る。
何だか信じられないぐらい幸せで、心も満たされていた。
ベッドに入ると心地良い疲労に襲われて、気持ち良く眠りについた。
ぐっすり熟睡して朝が来る。
私はまた早起きをして湊のためにお弁当を作った。
やっぱり湊は物凄く喜んでくれて、私も一緒に嬉しくなった。
火曜日も夜は一緒に過ごして、水木はまた湊が忙しくって。
一人寂しい時間を過ごした。
けれどもやっぱり時間はあっという間に過ぎて、気付いた時にはもう、金曜日になっていた。
昼休み桃ちゃんに声を掛けられて初めて、今日が約束していた合同の飲み会の日だと気付く。
私は湊に連絡するのをすっかり忘れていて、慌てて遅くなるとのメッセージを送った。
仕事が終わってスマホを見ても、湊から返信は無かった。
湊も忙しいのかな? と思って私はそこまで気にも止めなかった。
――後から思えば、それがいけなかったんだ。
――残り、21日。
その日は、いつもよりもずっと早起きをした。
夫婦らしいこと、って考えて分かりやすくお弁当を作ろうと思ったのだ。
愛妻弁当とまではいかなくても、栄養あるものを食べて欲しくて。
彩も考えて二人分のお弁当を作った。
それが出来上がるとちょうど湊が起きてきて、私はそれを差し出した。
「おはよう湊。あのね、今日……お弁当作ってみたんだ。もし良かったら食べてくれる?」
重いとか、うざいとか思われたらどうしようって気持ちも少しあって。
ドキドキと返事を待つ。
湊は何も言わない。
怒らせた? って慌てて顔をあげると、今まで見たことのない表情がそこにあった。
「湊……?」
「え、あ、……ごめん。ありがと。すごい嬉しい」
「本当?」
「うん。……こういうの、初めてだから。本当、うれしい」
湊がはにかんだように笑う。
何だかそれだけでもう、今日の早起きのおつりが来たみたいだった。
嬉しくなって笑顔を返す。
「良かった。夜は食べたいものある?」
「そうだな……じゃあ、今日は魚で」
**
朝のやり取りを思い出しながら会社での時間を過ごす。
何だか足取りも軽くて、気持ちがふわふわ飛んでいってしまいそうだった。
「今日みひろめちゃくちゃ機嫌いいね。何かあった?」
「んー」
昼休み、そう問う桃ちゃんにふふっと笑って誤魔化す。
「どうしたの? 怖いんだけど」
「えっとねー……昨日の霰のコンサートが良かったんだ」
湊のことは言えなくて、そう伝える。と、桃ちゃんはなるほど、と納得した。
「そういえばそんなことも言ってたね。楽しめたなら何より」
そう言われて複雑な気持ちになる。
本当は桃ちゃんに全て言ってしまいたい。
今度ありささんに訊いてみようかな?
仕事が終わって、今日も定時であがる。
それから少しだけ急いで帰路に着いた。
大分慣れた電車に乗って、最寄り駅で降りる。
ご機嫌なままスーパーに寄って湊のリクエストの魚を買い、家に帰ってそれをムニエルにした。
20時を回る頃、湊は帰ってきた。
「おかえり湊!」
「ただいまみひろさん。お弁当ありがと、すごいうまかった」
帰るなりそう笑ってお弁当箱を返され心臓がきゅんっと高鳴った。
嬉しそうな湊を見るのが嬉しくてたまらない。
「喜んでもらえて良かった! 明日も作るから。……晩御飯ももう出来るし、手、洗ってきて」
一週間経って慣れたのか、昨日の喧嘩が良かったのか。
晩御飯の会話がとても弾んだ。
他愛もないことのはずなのにすごく楽しく感じて。
ご飯を食べ終えて食器を片付けて、交互にお風呂に入って。
あっという間に眠る時間になった。
寝るのが少しだけ惜しく感じて、……そしたらそれが伝わったのか、湊はそっと私の頬にキスをした。
それが嬉しくって上機嫌で部屋へと戻る。
何だか信じられないぐらい幸せで、心も満たされていた。
ベッドに入ると心地良い疲労に襲われて、気持ち良く眠りについた。
ぐっすり熟睡して朝が来る。
私はまた早起きをして湊のためにお弁当を作った。
やっぱり湊は物凄く喜んでくれて、私も一緒に嬉しくなった。
火曜日も夜は一緒に過ごして、水木はまた湊が忙しくって。
一人寂しい時間を過ごした。
けれどもやっぱり時間はあっという間に過ぎて、気付いた時にはもう、金曜日になっていた。
昼休み桃ちゃんに声を掛けられて初めて、今日が約束していた合同の飲み会の日だと気付く。
私は湊に連絡するのをすっかり忘れていて、慌てて遅くなるとのメッセージを送った。
仕事が終わってスマホを見ても、湊から返信は無かった。
湊も忙しいのかな? と思って私はそこまで気にも止めなかった。
――後から思えば、それがいけなかったんだ。