レンタル夫婦。
**
18時25分。
湊と一緒に部屋を後にする。
階段を下りて二階に行き、説明を受けていた菫の間という部屋へと向かった。
中は広い畳の部屋で、テーブルがいくつかあった。
「佐伯さまですね、こちらです」
入口の所にいた仲居さんに湊がチケットを渡すと、少し奥の窓際の席へと案内された。
テーブルの上には豪華なお膳が並べられていた。
鍋のようなものが右側にあり、その横にはお刺身やてんぷら、焼き物など正直言って食べきれない量だった。
「どうぞ、みひろさん」
湊はそう言って椅子の一つを引く。
こうやってエスコートするのは凄いなと感心しながら、その椅子へと腰を下ろした。
仲居さんがあらあら、なんて呟くのを聞いて少しだけ顔に熱が集中する。
私たち、本当に夫婦に見えているのかな?
なんてことが気になって落ち着かない。
「それでは火が消えましたらお召し上がりください。ご飯はいつお持ちしましょうか」
「あー……みひろさんどうする?」
「私はあとでも良いけど……湊が食べるなら一緒に貰おうかな」
「うーん、じゃあ、もう少ししたら声をかけます。……飲み物は?」
「えっと……じゃあこの、オススメの果実酒ってやつで」
「オレも同じのにしようかな。……それ二つください」
「はい。飲み方はどうされますか?」
「一つはソーダ割で。みひろさんは?」
「あ、私のも同じで」
そんな会話をして仲居さんがいなくなる。
改めて湊の方を見ると、湊はやっぱり優しく笑った。
すぐに仲居さんが戻ってきてそれぞれの飲み物をお膳の横に置かれる。
「じゃあ食べようか。頂きます。……それと、おつかれさま」
湊はそう言って頼んだグラスを少し掲げた。
「おつかれさま。……今日は、ありがと」
私もそう返してグラスを下の方からそっと触れ合わせる。
こつん、と小さく音が響いて、お互いそれを離して一口飲む。
爽やかな果実の甘味とソーダの清涼感が喉元を過ぎていく。凄くさっぱりしていて飲みやすかった。
「! おいしい…」
ついそう呟いてはしゃぐように湊を見る。
湊はおかしそうに笑う。
「そうだね。のみやすい」
「うんうんっこれ、売店に売ってるかな? 買って帰りたい」
「そんなに気に入ったの?」
「うん、すごく好きな味」
意外そうな湊にそう返して笑う。
そのあとで、食前酒の存在に気が付いた。
「あ……よく考えたら、こっちが先だよね?」
「あーそっか、気付かなかった」
苦笑してそれを示すと湊も今気付いたというようにそれを見る。
お互い顔を合わせて笑い、それを持ち直して口に含む。
果実酒とは違ってお酒がきつめだった。
甘味はあるけれど、日本酒みたいな味がする。
ついつい顔を顰めると、湊はふっとふき出した。
「みひろさん、すごい顔……こういうのは苦手?」
「うん……強いお酒は飲めないから。湊は平気そうだけど、お酒すきなの?」
「んーまぁ、オレは基本なんでも飲めるよ」
二週間も一緒にいて初めて知る事実に私は少しだけ動揺した。
湊は本当に何気ないことのように言って、箸をとる。
改めて湊の食べ方が綺麗だなって見惚れていると、目があって首を傾げられた。
「食べないの?」
「! ううんったべるよ。頂きます」
慌てて顔を逸らして箸をとる。
どうしよう、顔が熱い。……どうか湊が、お酒のせいだと思ってくれますように。
結局私はお酒をお代わりした。
食事の方は量が多くて食べきれなかったけど、近くで取れた山菜を使ったレシピや、川魚のレシピなど、普段は食べれないものばかりで凄く大満足だった。
二人ともごちそうさまをした後で、仲居さんが持ってきてくれた温かいお茶を味わう。
ほうっと息を吐くと湊が呟いた。
「みひろさんっていいよね、せかせかしてなくて」
「せかせか?」
「そう。……なんていうのかな、こう、食べたからすぐ部屋戻ろう! とかそういうタイプじゃないでしょ?」
「あー……そうかも、ちょっとのんびりしてるのかな」
「褒めてるんだけどね、オレ。急かされるの嫌いだから」
お茶を味わいながら湊が告げる。
それも初めて聞いたな、ってちょっとだけ感動。
「湊は少し、マイペースな所があるよね?」
「あ、ばれてた?」
あえて口に出すと、悪戯っ子のように湊は笑った。……かわいい。きゅんってして見つめていると、湊はおかしそうに笑う。
「でもさ、オレよりみひろさんの方がマイペースじゃない。だいぶ振り回されてるよ、オレ」
「? そーなの?」
「うん。しかも無自覚とかタチ悪いよね。……はぁ。オレ、主導権握られるの本当は嫌いなんだけど。みひろさん相手だとまぁいっかなって思っててびっくりする」
溜息を吐いて湊が顔を逸らす。
よく分からない本音に、私の頭は一瞬停止した。
少し間を置いて、出た答えを口にする。
「それって、湊は」
「あーダメ。今は言わないで」
……けれど、途中まででそう遮られた。
湊の顔が照れたような表情になる。
ふふっとつい笑みがこぼれた。
「やっぱり湊は可愛いよ」
「……だから、そうやって馬鹿にしないでよ」
「褒めてるんだよ」
そんな風に話しながら、こんなに何気ない会話が楽しすぎてビックリする。
照れる湊は可愛くて、また抱きしめたくて困った。
「……そろそろいこっか」
そんな会話を繰り返してお茶のお代わりまでして。
だいぶのんびり過ごした後で湊がそう提案した。
私も頷いて席を立つ。
有難うございました、と頭を下げる仲居さんに見送られて私達は自分達の部屋へと戻った。
18時25分。
湊と一緒に部屋を後にする。
階段を下りて二階に行き、説明を受けていた菫の間という部屋へと向かった。
中は広い畳の部屋で、テーブルがいくつかあった。
「佐伯さまですね、こちらです」
入口の所にいた仲居さんに湊がチケットを渡すと、少し奥の窓際の席へと案内された。
テーブルの上には豪華なお膳が並べられていた。
鍋のようなものが右側にあり、その横にはお刺身やてんぷら、焼き物など正直言って食べきれない量だった。
「どうぞ、みひろさん」
湊はそう言って椅子の一つを引く。
こうやってエスコートするのは凄いなと感心しながら、その椅子へと腰を下ろした。
仲居さんがあらあら、なんて呟くのを聞いて少しだけ顔に熱が集中する。
私たち、本当に夫婦に見えているのかな?
なんてことが気になって落ち着かない。
「それでは火が消えましたらお召し上がりください。ご飯はいつお持ちしましょうか」
「あー……みひろさんどうする?」
「私はあとでも良いけど……湊が食べるなら一緒に貰おうかな」
「うーん、じゃあ、もう少ししたら声をかけます。……飲み物は?」
「えっと……じゃあこの、オススメの果実酒ってやつで」
「オレも同じのにしようかな。……それ二つください」
「はい。飲み方はどうされますか?」
「一つはソーダ割で。みひろさんは?」
「あ、私のも同じで」
そんな会話をして仲居さんがいなくなる。
改めて湊の方を見ると、湊はやっぱり優しく笑った。
すぐに仲居さんが戻ってきてそれぞれの飲み物をお膳の横に置かれる。
「じゃあ食べようか。頂きます。……それと、おつかれさま」
湊はそう言って頼んだグラスを少し掲げた。
「おつかれさま。……今日は、ありがと」
私もそう返してグラスを下の方からそっと触れ合わせる。
こつん、と小さく音が響いて、お互いそれを離して一口飲む。
爽やかな果実の甘味とソーダの清涼感が喉元を過ぎていく。凄くさっぱりしていて飲みやすかった。
「! おいしい…」
ついそう呟いてはしゃぐように湊を見る。
湊はおかしそうに笑う。
「そうだね。のみやすい」
「うんうんっこれ、売店に売ってるかな? 買って帰りたい」
「そんなに気に入ったの?」
「うん、すごく好きな味」
意外そうな湊にそう返して笑う。
そのあとで、食前酒の存在に気が付いた。
「あ……よく考えたら、こっちが先だよね?」
「あーそっか、気付かなかった」
苦笑してそれを示すと湊も今気付いたというようにそれを見る。
お互い顔を合わせて笑い、それを持ち直して口に含む。
果実酒とは違ってお酒がきつめだった。
甘味はあるけれど、日本酒みたいな味がする。
ついつい顔を顰めると、湊はふっとふき出した。
「みひろさん、すごい顔……こういうのは苦手?」
「うん……強いお酒は飲めないから。湊は平気そうだけど、お酒すきなの?」
「んーまぁ、オレは基本なんでも飲めるよ」
二週間も一緒にいて初めて知る事実に私は少しだけ動揺した。
湊は本当に何気ないことのように言って、箸をとる。
改めて湊の食べ方が綺麗だなって見惚れていると、目があって首を傾げられた。
「食べないの?」
「! ううんったべるよ。頂きます」
慌てて顔を逸らして箸をとる。
どうしよう、顔が熱い。……どうか湊が、お酒のせいだと思ってくれますように。
結局私はお酒をお代わりした。
食事の方は量が多くて食べきれなかったけど、近くで取れた山菜を使ったレシピや、川魚のレシピなど、普段は食べれないものばかりで凄く大満足だった。
二人ともごちそうさまをした後で、仲居さんが持ってきてくれた温かいお茶を味わう。
ほうっと息を吐くと湊が呟いた。
「みひろさんっていいよね、せかせかしてなくて」
「せかせか?」
「そう。……なんていうのかな、こう、食べたからすぐ部屋戻ろう! とかそういうタイプじゃないでしょ?」
「あー……そうかも、ちょっとのんびりしてるのかな」
「褒めてるんだけどね、オレ。急かされるの嫌いだから」
お茶を味わいながら湊が告げる。
それも初めて聞いたな、ってちょっとだけ感動。
「湊は少し、マイペースな所があるよね?」
「あ、ばれてた?」
あえて口に出すと、悪戯っ子のように湊は笑った。……かわいい。きゅんってして見つめていると、湊はおかしそうに笑う。
「でもさ、オレよりみひろさんの方がマイペースじゃない。だいぶ振り回されてるよ、オレ」
「? そーなの?」
「うん。しかも無自覚とかタチ悪いよね。……はぁ。オレ、主導権握られるの本当は嫌いなんだけど。みひろさん相手だとまぁいっかなって思っててびっくりする」
溜息を吐いて湊が顔を逸らす。
よく分からない本音に、私の頭は一瞬停止した。
少し間を置いて、出た答えを口にする。
「それって、湊は」
「あーダメ。今は言わないで」
……けれど、途中まででそう遮られた。
湊の顔が照れたような表情になる。
ふふっとつい笑みがこぼれた。
「やっぱり湊は可愛いよ」
「……だから、そうやって馬鹿にしないでよ」
「褒めてるんだよ」
そんな風に話しながら、こんなに何気ない会話が楽しすぎてビックリする。
照れる湊は可愛くて、また抱きしめたくて困った。
「……そろそろいこっか」
そんな会話を繰り返してお茶のお代わりまでして。
だいぶのんびり過ごした後で湊がそう提案した。
私も頷いて席を立つ。
有難うございました、と頭を下げる仲居さんに見送られて私達は自分達の部屋へと戻った。